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「加藤合同国際特許事務所~知財とびうめ便り~」 Vol.91
発信日:2023年 7月 3日 発信者:加藤合同国際特許事務所
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◇ 目 次 ◇
1.弁理士コラム
◆商標取消請求事件
2.知財ニュース
◆「ニコニコ動画配信」特許侵害訴訟、海外サーバを使っても侵害認定 ドワンゴ逆転勝訴
3.連載 知財講座
◆第91回:特許「特許を取ることの意義」
4.所員ほのぼの日記
◆親子たいそう
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1.弁理士コラム
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◆商標取消請求事件
今回は、商標法第4条第1項第8号にいう「他人の名称の略称」に該当するかが争われたものとして有名な最高裁判決「月の友事件」昭和57年(行ツ)第15号審決取消請求事件を取り上げます。
(事案の概要)
被告は、「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品とし、「月の友の会」の文字を書してなる本件商標(登録第664346号)の商標権者です。
原告は、「株式会社月の友の会」を商号とする法人であり、被告の本件商標は、商標法第4条第1項第8号該当を理由とする無効審判を請求したところ、本件審判請求は成り立たないという審決がなされ、これを不服として審決取消訴訟を提起したが、請求棄却判決がなされ、上告しました。
しかしながら、最高裁は、上告を棄却し、その理由を次のように指摘しました。
(1)商標法第4条第1項第8号でいう「他人の……名称」とは、本件原告の場合「株式会社月の友の会」であって、単なる「月の友の会」ではない。
(2)原告は、株式会社の商号から「株式会社」の文字を除いたものは、同8号にいう「他人の名称の略称」に該当し、この場合、右略称が著名な場合に限って登録を受けることができない旨解すべきものである。
(3)「月の友の会」が原告の営業を表示するものとして著名であったことを認めるに足る証拠はないから、原告の主張には理由がない。
(※解説)
特許庁編「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」(第22版)1553頁以下には、商標法第4条第1項第8号は、人格権保護の規定であること。「著名な略称」を加えたのは、ある程度恣意的なものだからすべてを保護するのは行き過ぎなので、「著名な」ものに限ったこと。「これらの著名な略称」とは、氏名、名称、雅号、芸名及び筆名の略称の意味であることが記載されています。
また、商標法第4条第1項第8号は、その括弧書きで、「その他人の承諾を得ているものを除く」とされ、商標登録無効審判の請求に関する除斥期間(商標法第47条第1号)の適用があることから、公益的理由ではなく私益的理由であると考えるのが、一般的とされています。また、同号は、査定時のみならず、出願時にも該当しなければなりません。
本件については、「株式会社月の友の会」と「月の友の会」との関係になりますから、判決の結果妥当性に、疑問乃至違和感はありません。しかし、最高裁には、「略称」がどの程度著名でなければならないかという点を、例えば判断基準を示すなど、明らかにして欲しかった思いはありますが、残念ながらそうなっていません。
一方、「ソニー」のような誰が見ても著名な法人の略称に何らかの文字が追加されている場合のように、同8号が該当するのかしないのか釈然としない例も知られています。結局ケースバイケースで考えるしかないのかもしれません。
商号商標(商号そのものが商標でもある場合)は、最も強く保護されるべき商標と思われますが、商号を定める際には、法人の本店所在地を管轄する法務局が認めれば足りるのに対し、商標権は、全国区と言える範囲をカバーするもので特許庁が登録要件を審査します。このため、両者に齟齬が生じやすいと言えるでしょう。
いずれにしても、商品の包装やホームページの記載を検討しているような場合には、このような問題も念頭に置くべきかと考えられます。
なお、最高裁では、信義則違反が広く議論されていますが、商標自体の問題ではないので、ここでは触れません。
商標権の運命に関して言うと、本件商標の無効理由は、最高裁まで議論されたものの、理由なしのと結果に終わり、商標権者は権利を守りきった格好になりました。一方、これに反して、守り切られたはずの登録第664346号の商標権は、昭和60年(1985年)1月19日に存続期間満了により(権利の更新申請がなされずに)消滅しています。数奇な運命を経たものといえるでしょう。
弁理士 平野 一幸
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2.知財ニュース
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◆「ニコニコ動画配信」特許侵害訴訟、海外サーバを使っても侵害認定 ドワンゴ逆転勝訴
携帯電話向けの音楽配信や動画配信等のビジネスを展開している大手の株式会社ドワンゴが、再生中の動画にコメント表示する機能の自社特許(特許第652630号)を侵害されたとして、米FC2などを相手に同機能の配信差し止めと10億円の損害賠償を求めていた控訴審判決が、5月26日、知財高裁の大合議で下されました。
この判決では、請求を棄却した一審の東京地裁判決を覆し特許侵害と判断し、FC2側にコメント機能の配信差し止めと1100万円余りの損害賠償を命じました。
争点となったのは、FC2が国外のサーバを利用して日本国内のユーザー端末に提供しているコメント付き動画配信サービスのシステムが、日本で登録されたドワンゴの特許を侵害していると認めるか否かでした。2022年の一審判決では、サーバが海外にあるとして、「属地主義の原則」に従い、侵害を認めませんでした。
今回の知財高裁判決では、システムを構成する一要素であるサーバが国外にある場合でも、システムを構成する要素が国内にあり、それが果たしている機能や効果が及ぶ場所、特許権者の経済的利益に与える影響などを総合的に考慮し、当該発明の「生産」が日本で行われたと判断できるときは、特許侵害が認められると示しました。
その上で、FC2のサービスが日本の国内ユーザーの端末を必要としている上、「娯楽性の向上」という発明効果も国内で発揮されており、同機能の日本国内におけるドワンゴの経済利益に影響を及ぼし得るものであるとして、「生産」が日本で行われたと認定し、特許侵害と判断しました。
今回の裁判では、争点についての意見を広く外部に求める「第三者意見募集」が初めて実施され、多数の意見書が証拠として集まり、活用されたということです。
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3.連載 知財講座
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◆第91回:特許「特許を取ることの意義」
日本では毎年30万件程度が新たに特許出願され、毎年17~18万件が新たに特許権として成立しています。また、日本国内の企業や個人等による特許の保有件数は、約164万件(2021年)、外国の企業や個人等による保有件数は、約38万件(2021年)となっています。
このように膨大な数の特許が取得されていますが、特許権者が保有する特許権の中で「特許を取って本当に良かったと肌で実感できるもの」は、果たしてどのくらいあるのでしょうか。
企業や個人等が特許を取得する目的として、次のようなことが挙げられます。
(1)実際に販売する自社製品と同一もしくは類似する製品を他社から発売されるのを阻止する参入障壁(特許権の独占的効力)を得るための特許
(2)他社にライセンスして相当のライセンス収入がある特許、または、他社との特許交渉で得られるライセンス料の増額や支払うライセンス料の減額に役立てるための特許
(3)すぐには販売しないが、将来の商品化を見据えて保有している特許
(4)競合他社との争いに備え対抗するために必要と考えた特許(競合企業との特許のパワーバランスを考慮したもの)
(5)明確な理由はないが、開発成果としてひとまず保有している特許、他
上記(1)~(5)の中で、特許権者が、特許権の効力を肌で実感しやすいのは、(2)の目的の特許でしょう。しかしながら、(2)のような目に見える形で特許が有効に活用されている件数は、保有件数164万件のうち、何パーセントくらいあるのでしょうか。統計データ等はありませんが、おそらく5%にも満たないと思われます。
では、残りの特許はどうなのでしょうか?
実情としては(1)の自社製品を保護するための特許の占める割合が多いと思われますが、本当にこの特許で、自社製品を守っているのかが実感できないと思われている特許権者も多いように思います。
最近、「特許が自社製品を守っていることを実感した」とのお話をお聞きしましたのでご紹介します。ある中小企業の方からのお話です。
日ごろ特許の効力を、肌で感じることは多くありませんが、上記のお話は、ライバル会社にとって確実に特許が「参入障壁」になっていたことを物語っているといえます。
やはり、新製品を市場に出すときには、他社から同じような製品が販売されないように特許で確実に守ることの重要性を再認識しました。
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4.所員ほのぼの日記
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◆親子たいそう
先日、娘が通っている保育園で「親子たいそう」というイベントがありました。
NHKの番組『おかあさんといっしょ』の10代目たいそうのおにいさんである”ひろみちおにいさん”を招いて、30分ほど親子で触れ合い体操するものです。
実際に目にしたひろみちおにいさん(でももう50代)は、小顔でスタイル抜群。何よりも話し方が優しい。
●子供の視力は1歳で0.2、2歳で0.5前後。意外と見えてないのでしっかりと目を離さず、優しく話しかけてあげること。
●泣いてしまったらギュッとハグして落ち着かせてあげること。
我が子は絶賛イヤイヤ期です。
分かっていてもなかなか実践できていない自分をズバリ言い当てられたようであやうく泣きそうに、、笑
「親子たいそう」の間も私にしがみついて離れず「イヤイヤ」と言っておりました。
これもいい思い出になるのでしょうね。。